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新年に思う若者の罪悪感―震災記(19)

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新年のめでたさ

 あけましておめでとうございます!

 今年もよろしくお願い申し上げます。

 …と言いますけど,何がめでたいのかというと,皆で揃って齢を重ねたからです。

 数え年が1つ増えるからです。

 つまりは,みんなでいっしょにお誕生祝いをしているようなものなのですよね。

 でも,満年齢が一般化してずいぶん経っていますから,そういう感覚は薄れてきています。

 めでたいのは「正月」や「新しい年を迎えたこと」であり,皆が齢を重ねたということを意識することはなくなっているのではないでしょうか。

 そして,皆で1年を無事に過ごして齢を重ねたことを喜ぶ感覚は,この1年のあいだに亡くなってしまった方々の無念に思いを馳せることと表裏一体のものであるとも言えます。

 ということは,新年にあたって死者のことを想起するという感覚も薄れているかもしれません。

 喪中という慣習は残っていますが,少しずつ形骸化し始めているのではないでしょうか。



 生きることは生き延びること,生き残ることであり,そうである以上,心の中に広義のサバイバーズ・ギルトを堆積させていくプロセスであると言えます。

 少しずつ。

 幸せに生きていられる自分という存在に対する意識が,どこかで罪悪感や後ろめたさのようなものに繋がっていて,それがまた自分が生きることを支えている…。

 今年は,そのような思いを心に刻みながら,「あけましておめでとうございます!」と申し上げることにいたします。

“さとり世代”悪玉論

 暮れに見て,とても引っかかるものがあった番組を,年が明けてからもう一度NHKオンデマンドで見直しました。

 ためしてガッテン小野文恵さん(1968年生まれ)がキャスターを務めた「週刊ニュース深読み」「欲しいものはなに?景気のカギは若者にあり」(12/21放送)です。

 車やブランド服,海外旅行など,かつて若者たちが中核をになっていた消費財が軒並み売れ行き不振になっていて,それが景気回復の妨げになっているという,「さとり世代悪玉論」とも言うべき主張が番組の出発点になっていました。

 桂文珍(1948年生まれ),松本明子(1966年生まれ),牛窪恵(1968年生まれ),原田曜平(1977年生まれ)など,団塊世代から団塊ジュニア世代ぐらいまでのオジサン・オバサン世代の出演者が,一方的に若者バッシングを繰り広げていると言っても過言ではないぐらいの,かなり偏った番組になってしまっていました。

 放送中に寄せられたツイートは2500以上で,当然のことながら,そのほとんどは番組の内容を批判するものです。

 炎上マーケティングではないかというツイートが複数寄せられるぐらいにツッコミどころ満載の放送内容だったのですが,その一方で考えさせられる問題がたっぷり詰まった,思考トレーニングの良質な素材とも言える番組でした。

 書いていくときりがないくらいなのですが,とりあえず「罪悪感」という問題に絞って,問題点を書き留めておきます。

物を買うことに対する罪悪感

 番組の後半で特集が始まってまもなく,NHKの中山準之助アナウンサーが若者が物を買えなくなっている要因をプレゼンします。

 中山アナによると,若者が物を買わなくなっている理由は,「情報疲れ」「罪悪感」「先送り」の3つだと言います。

 ここでは,「情報疲れ」と「先送り」についての説明は省いて,「罪悪感」についてのスタジオでのやり取りのさわりを紹介しておきます。

 同時に複数の出演者が発言していることもあり,聞こえてくる音声のすべてを忠実に文字にしているわけではなくて,私が自分の考えを記していく上で重要な発話に焦点を当てる形で紹介することをあらかじめお断りしておきます。

中山アナ「NHKのアンケートでも、物を買う時になんか申し訳ない気持ちが起きるという風に答えた若者の割合というのがじつに6割近くにも…」
松本明子「えーーーっ! 涙ぐましい…」
小野キャスター「誰に?誰に罪悪感ですか?」
中山アナ「ちょっとそこは若者たちに聞いてみないと…」
原田曜平「こんなに使っちゃっていいのかなぁという…」
松本明子「自分?」
牛窪恵「バカな自分を」
中山アナ「こんなに使っちゃったっていう点で、中には1万円を超えると、もう罪悪感生まれるっていうふうに答える方もいるんですね」
桂文珍「ガハハハハ…それで罪悪感出るんやったら、僕なんか何度も死なないといけないですね」
スタジオ一同「アハハハハ」
牛窪恵「私とか、原田さんも、今年“さとり世代”ということを言っているんですけど、やっぱり、ゆとり世代が悟っちゃってて、買っても無駄になるな~とか、あまり使わないんじゃないかとか、いろんなことを考えちゃうんですよね」
桂文珍「そりゃもう、なまざとりですからねぇ」
牛窪恵「へへへへへ…」

 物を買うことに罪悪感を覚えるという若者を,団塊世代やバブル世代のオジサン・オバサンが嘲笑するという,何とも後味の悪い場面です。

 すでに十分すぎるくらいにオジサンである新人類世代の私にとって意外だったのは,スタジオにいるオジサン・オバサンたちが,「物を買う時になんか申し訳ない気持ちが起きる」という若者たちにまったく共感できないばかりか,そういう罪悪感を想像することすらできない様子であったことです。

 番組に寄せられているツイートにも,若者たちの罪悪感を嘲笑する出演者たちと同じ立場であると思われるものがちらほら見かけられました。

金を使うのに罪悪感とか意味が不明だ。 #nhk_fukayomi
(zuo3_ 2013-12-21 08:58:16)

#nhk_fukayomi
は?罪悪感?
ないわwww
(connect029 2013-12-21 09:02:21)

 年齢はわかりませんが,必ずしも中高年のツイートとは限らず,特に引用の2つ目ツイートは,「(若者に罪悪感とかって言ってるけど,俺には)ないわwww」というニュアンスであると考えられ,若者からのツイートである可能性が高いです。

 当たり前の話ですが,物を買う時に罪悪感を感じるという気持ちを理解できないのは中高年に限った話ではないわけです。

 逆に罪悪感という話に共感する次のようなツイートも,必ずしも若者のものばかりではないのかもしれません。

20代の女性。私も貯蓄に回します!お金を使う事に罪悪感が出て、面倒になります。 #nhk_fukayomi
(7forestCherry 2013-12-21 08:56:07)

情報疲れ、罪悪感、先送り、ぜんぶあてはまるわ(笑) #nhk_fukayomi
(mamamayaaki 2013-12-21 08:57:55)

@nhk_fukayomi 10代男です
自分も何か買うと何故か罪悪感を感じます。やはり若者のそのような感情も景気に左右されているんではないでしょうか
(1325Nm 2013-12-21 09:00:45)

当たり前だろおおおおおおお買って捨てるのになぜ罪悪感がないのだああああ #nhk_fukayomi
(Hyuga_yo 2013-12-21 09:06:44)

ゴミに成るのが見えてるので無駄な消費に罪悪感を感じるんですよ。#nhk_fukayomi
(tokyohippy 2013-12-21 09:10:00)
 

 世界中にどれだけの不幸があり,どれだけ多くの人々が飢えや貧困に苦しんでいるのかという現実を少しでも意識していれば,この国で自分の欲望を満たすために消費することに対して罪悪感を覚えるというのはごく自然な感情だと私は思います。

 就活の勝ち組で一流企業に正社員で就職できたような若者はもちろんのこと,派遣労働で食いつないでいたり,ブラック企業で酷使されていたり,低所得にあえいでいる若者であったとしても,相対的に恵まれている自分の立場をかえりみて,「無駄な消費」をすることに罪悪感を覚えるということは,十分にあり得ることです。

 もちろん「自分が消費をやめたって,世界の飢えや貧困がなくなるわけではないし…」「平穏に生きることができる人間は,そういう幸せを享受すべきだ」「より多くの人々が豊かになるためには,自分たちが積極的に消費して経済を活性化することが必要だ」「私は私なりに,私の家族とともに,私の人生をまっとうするしかないじゃないか」等々,さまざまな理由を用意しながら消費社会を生きる自分を容認する人もいるでしょう。(私もそうです)

 「そんなことはいちいち気にしてられない(=バカバカしい)」という人もいるでしょう。

 しかしそういう人たちも,「そんなこと」が存在するということは知っているわけです。

 しかも,東日本大震災のような出来事が起こったわけですから,罪悪感や後ろめたさという感情は,日常的に意識していないとしても,多くの人々の心のどこかに必ず潜在しているものではないかと思っていました。

 ところが,スタジオに出演していた人たちが,そういうこと感情をまったく想像できないでいる様子であったということが,私にとっては衝撃だったのでした。

(つづく)

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