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観る前に書くジブリ映画「風立ちぬ」評

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 観てから書くと長くなりそうなので,観る前にレビューの“予定稿”を書いておきます。

 そもそも観ていないのでネタバレはありません。ご安心下さい。

堀辰雄と村上春樹

 竹内清己さんの『村上春樹・横光利一・中野重治と堀辰雄―現代日本文学生成の水脈』(2009年・鼎書房)は,「�村上春樹と堀辰雄」という章から始まっています。

 堀辰雄村上春樹の文学を,空っぽで見せかけだけのもっともらしいインチキ文学,すなわちフォニー【phony】として否定した江藤淳に対する異議申し立てが,本書のモチーフになっています。

 江藤淳にとって堀辰雄と村上春樹は同じ穴のムジナなのです。

 また,2人の作家をムジナ扱いする江藤淳を批判する竹内清己さんも,村上春樹を読んで「ああこれは堀辰雄ではないか」と感じたと言います。

 2人の作家の類縁性は,否定派であれ肯定派であれ等しく認めるところであると言えます。

 ですから否定派であれ肯定派であれ,『ノルウェイの森』の直子が,堀辰雄の小説『菜穂子』に由来するものである可能性を指摘してみたくなるはずなのです。

 ジブリ映画『風立ちぬ』のヒロインの名前が,小説『風立ちぬ』の「節子」ではなくて,「菜穂子」であるのも,小説のタイトルになっていてわかりやすいということだけではなくて,堀辰雄から村上春樹へと流れる水脈(竹内清己)を宮崎駿がどこかで意識していたからだと言えるのかもしれません。

 死に瀕したヒロインが山の中で救いを求めていて,ヒーローたらんとした男が救おうと試みるも宿命的に失敗し,生き残りの罪障感を抱えながら生きていくすべを模索する…という物語のかたちが,『ノルウェイの森』と小説『風立ちぬ』の共通点です。

 要するに(?),ピーチ姫を救えなかったマリオの物語であるということになります。

 ジブリ映画「風立ちぬ」にもおそらく,美しいものが宿命的に損なわれ,失われてしまい,ヒロインを救うヒーローたりえなかった男の“生き残りの罪障感”が底流しているに違いありません。

 それはまた,軍事オタクでありながら(あるがゆえに?)「風の谷のナウシカ」を生み出してスタジオジブリ創設の足がかりを作った宮崎駿の来歴とも,深く関わっている問題であるように思えます。

ユーミンの「ひこうき雲」

 1ヶ月ほど前だったでしょうか。映画公開に先立ち「風立ちぬ」のコマーシャルが放映されていて,ユーミン「ひこうき雲」が流れてきました。

 それからというもの,仕事中も「ひこうき雲」が頭の中でヘビロテで鳴り響いていました。

 仕事を終えてJR線のホームで電車を待っている時に,やむにやまれずスマホに「ひこうき雲」をダウンロードし,実際のヘビロテで何度も聴きました。(もちろんCDも持っているんですが)

 いわゆるジブリ映画好きにとってはどうもイマイチの評判らしいのですが,素晴らしい楽曲でありながら,どこかもの足りなさが残る「ひこうき雲」が,映画の主題歌になることによって画竜点睛ということになっているといいなと期待しながら,今日の午後にでも映画館に足を運ぶつもりです。

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